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2026

世界が見つけたのは、この土地だった

Architizer A+Awards 2026 Popular Choice Winner

Né より

Né ·新潟県新発田市

Né(ネ)という名前には、二つの意味を込めました。

ひとつは、日本語の「根」。地中に伸びて、大地の養分を吸い上げ、木を育てるもの。もうひとつは、フランス語の né。「生まれた」という意味です。深く、地に潜ること。そして、そこから生まれ出ること。その両方を、この場所で。

この6月8日、Né は Architizer A+Awards 2026 の Architecture + Environment(建築と環境)部門で、世界第1位に選ばれました。80を超える国々から作品が集まり、世界中の人々の投票で決まる、Popular Choice Winner です。

たいへん光栄なことです。ただ、本当のことを言えば、この1位は、私たちのものではない気がしています。

これは、この土地が受けた評価なのだと。

ブルーアワーのNé
ブルーアワーのNé。新発田の広い風景に、灯りをともしたひとつの姿。背後に杉木立、傍らに川。

不可能だ、と言われた。

建築家の福西健太が、はじめてこの土地に立ったとき、決まっていたのは名前だけでした。本間家が300年にわたって守ってきた、田を見下ろす尾根。けれど、その名前が、進むべき道をもう示していました。根を下ろす建築。土地の上に建てるのではなく、土地から立ち上がる建築を。

問いは、ひとつだけでした。ここでしか建てられないものは、何だろう。

答えは、足元の土の中にありました。

土壁の列柱と木漏れ日
深い軒下の土壁の列柱に、木漏れ日の影が落ちる。

コンクリートは、使わない。少なくするのではなく、一切、使わない。鋼の杭を打ち、コンクリートで地面を固める。その当たり前を、やめました。打ち込んだのは、105本の木の杭だけ。土と木が擦れあう力で、建物を支えています。地面を大きく掘ることも、土を運び出すことも、鉄を使うこともありませんでした。

建物は、土地の上に乗っているのではなく、土地にそっと浮かんでいます。

105本の木の杭の俯瞰
雪の残る凍てついた地面に打ち込まれた、105本の木の杭の俯瞰。コンクリートを使わない基礎。
建物の床下、土に立つ木の杭
建物の床下。土に立つ木の杭の列、足元には雪。木と土の摩擦の上に建つ。

いつか役目を終えるとき、杭は土に還り、建物は跡形もなく消えていく。300年、ひとつの家族が大切にしてきた土地です。傷を残してはいけない。それは工法の問題というより、この土地への礼儀でした。

壁の土さえ、この場所から掘り出したものです。よそから運んではいません。建物の足元の土を、味噌や酒のように半年ほど寝かせ、発酵させて、職人が手で塗り重ねました。だから建物は、足元の大地と、ぴたりと同じ色をしています。

昼のNéと土壁
昼のNé。大地と同じ色の土壁、瓦屋根、一本の古木、その向こうに田。

ここにあるもののほとんどは、近くに暮らす職人たちがつくりました。三代続く熊谷建設をはじめ、新発田の厳しい冬も、この土地の手仕事も、知りつくした人たちです。世界がこの建築に気づくよりずっと前から、彼らはこういう家のつくり方を、当たり前のように身につけていました。

真冬に立ち上がるNéの木組み
深い雪の中、足場に囲まれて立ち上がるNéの木組み。真冬に、土地の人の手で。

守るだけでは、続かない。

Né には、二つの願いがあります。

ひとつは、環境のこと。コンクリートを使わず、いつか土に還る建築。それは、いまの時代が建築に突きつけている問いに対する、静かで、確かな答えです。

もうひとつは、職人の手のこと。受け継がれてきた技は、ただ守っているだけでは、いつか途絶えてしまいます。世界に知られ、正しく評価され、求められる。お客様が訪れ、暮らしが成り立ち、技術が次の世代へ継承されていく。そうしてはじめて、技は生き残ります。

これが、いちばん伝えたいことです。Né は、消えゆく建築を惜しむための記念碑ではありません。その技術を、未来へつなぐための仕組みです。日本の片隅にある小さな里と、世界とを、まっすぐに結ぶ。世界がその価値を認めてくれた建築。それをつくった職人たちの手を、次の世代まで、動かし続けたい。それが、私たちの願いです。

時間を、食べる。

お迎えするのは、一日にひと組だけ。

夜は、総料理長の布施真が、13皿のコースをお出しします。布施は、フランスの三つ星店、アントワーヌ・ヴェスターマンのもとで腕をみがいた料理人です。

コースのテーマは、「終わりから始まりへ、そして一瞬が永遠になるまで」。

一枚板の長いテーブルとダイニング
一枚板の長いテーブル、壁にともる月のような灯り、窓の向こうに田。

たどるのは、季節のうつろいではありません。時間そのものです。発酵、乾燥、熟成。新潟が、長い歳月をかけて食材の旨味を引き出してきた、その知恵を皿の上に。枯れた葉と、まだ見えない芽吹きにはじまり、蜂のひそかな営み、水面を切って泳ぐ魚、森の獣、誰にも望まれなかった水辺の生きものを経て、最後は、米と乳を敷いた皿の上の、ひと切れの果実。消えてしまう前に、口へ運ぶ。

土壁に円く並ぶ灯り
薄暗く瞑想的な土間。土壁に円く並ぶ灯り、暗いタイルの上に藁の器。
客室
客室。深い紅の寝具、土の壁、和紙の灯りがやわらかく照らす。

建築は、この土地に何が建てられるかを問います。料理は、この土地から何が食べられるかを問います。同じ問いに、二つのやり方で答えているのです。

ここで一夜を過ごすことは、土地にもてなされることではありません。ひと晩だけ、この土地のめぐりの中に、加えていただくこと。お帰りになるとき、手にしているのは、この土地と結んだ、ひとつの縁です。

勝つために、建てたのではない。

田舎の小さな建築が、こうした賞に選ばれることは、めったにありません。だから、素直にうれしい気持ちの一方で、私たちは少し立ち止まりました。

これは、華やかさを競う賞ではないと思っています。むしろ、ひとつの問いかけに、世界がうなずいてくれた。そういうことなのだと。

宵のNé
宵のNé。内から灯りがこぼれ、戸口へと続く道に灯がともる。

雪国の里に立つ宿が、コンクリートを一切使わず、この土地の土と、この森の木と、ここに暮らす人の知恵だけで建つ。しかもそれが、世界の第一線に並ぶ。その問いかけに、です。

勝ちたくて始めたことではありません。ここでしか建てられない、たったひとつの宿を建てたかった。ただ、それだけでした。

世界が、こちらに目を向けてくれました。しかも、ずいぶん近くまで来て、じっくりと。

けれど、その視線の先で、世界が心を留めたのは、私たちではなく、この土地でした。

夕暮れのNé
夕暮れ、大木の下で窓に灯がともる。
Architizer A+Awards 2026 公式認定証
Architizer A+Awards 2026 公式認定証 — 2026 Popular Choice Winner, Architecture + Environment。

Né — Niigata Re-Find 新潟県新発田市、山里にたたずむ一日一組のオーベルジュ Architizer A+Awards 2026 Architecture + Environment 部門 Popular Choice Winner(世界1位) 受賞:Ahead of the Curve 建築:福西健太建築設計事務所 施工:熊谷建設 写真:河田弘樹

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